ボタン

19世紀のビクトリア時代に流行った黒いガラス製のボタン。
ビクトリア女王が、夫アルバート亡き後、喪に服し黒いものを多用したのが、この時期の黒の流行とも言われてます。

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あまり文学などとは程遠い自分ですが、ボタンに喪ということから、うっすら頭に昔目にした一つの詩がおぼろげに。

月夜の浜辺
月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちてゐた。

それを拾つて、役立てようと
僕は思つたわけでもないが
なぜだかそれを捨てるに忍びず
僕はそれを、袂に入れた。

月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちてゐた。

それを拾つて、役立てようと
僕は思つたわけでもないが
月に向つてそれは抛れず
浪に向つてそれは抛れず
僕はそれを、袂に入れた。

月夜の晩に、拾つたボタンは
指先に沁み、心に沁みた。

月夜の晩に、拾つたボタンは
どうしてそれが、捨てられようか?

- 中原中也 -

愛児を亡くした後に発表した詩ということでした。