寄り道

ここに壁時計があります。自分が住む若松のある時代に時を刻んでいた時計。
映画『花と竜』、舞台は若松。原作者の火野葦平の父や家族、その当時の若松を描いた小説を映画化したもの。
中村錦之介、石原裕次郎、高倉健、渡哲也などの俳優が起用され、何度もリメイクされご覧になった方もいるでしょう。
主人公である玉井金五郎の生き様を描いたもの。その玉井は史実として石炭荷役請負業「玉井組」を設立します。
石炭で賑わいを見せた若松の歴史の中の一断片ですが、この時計が玉井組の事務所の壁に掛けられていたもの。

その事務所から時計が外されて、どのくらいの時が過ぎたかはわかりませんが、今日までの間に欠損し、扉も外れ、
中身も錆びてしまっていた時計。そんな状態で修理依頼がありました。

IMG_0032IMG_0056作業の流れ

近似する木目を抽出してパーツ作成

オリジナルの柄をパーツに転写

彫刻後モール作成

ステイン

ポリッシュ

ワックス

 

 

彫刻は専門でないものの、今回は浅い彫刻なので手持ちの彫刻刀でなんとかなりました。これがより立体的になると得意とする修復家や彫刻家にお任せします。
得意とする人に任せた方が家具やモノにとって最高のケアだと思います。もちろん自分ができる最大のことを施して。
でも彫刻を観察すると、ここから刃を入れてるなとか、その人なりの癖がみえてきます。そのタッチまで忠実に再現は出来なかったにしろ、楽しい観察と作業です。

今回もケースである外側は自分が担当し、時計本体は時計屋さんにバトンタッチ。同じように壊れた時計を目の前にし、さてどう修理しようかと時計屋さんが手を加えていく過程に移ります。

前の使用者から次に受け継がれる過程で、修理する人間も外見担当の自分から中身担当の時計屋さんに受け継ぐ流れ。
古いものを修理する世界でも、場所場所により、そんな有機的な関係の拠点がいくつもいくつもあれば、
時を超えて受け継がれていくものが、確実に増していくことでしょう。
ほんのちょっぴり私たちのところに寄り道して、新たな時を刻んでいくだろう時計。
今回は単に作業をするだけでなく、土地と歴史的な繋がり、人とモノの繋がり、人と人の繋がりというものをすごく意識して作業したものでした。

中身が修理され稼働した時に奏でる振り子に伴う音や渦巻き状の金具をハンマーで叩き、時を報せる音。
一体どんな音なんだろうなとワクワクしてこの作業を終えました。

2015.12.27 Updated |